Accueil / 恋愛 / AIカレシの愛楽くん / 6話 ジャスティンの声で言わないで!

Share

6話 ジャスティンの声で言わないで!

Auteur: 鈴奈
last update Date de publication: 2026-02-18 20:00:28

「あ。ゆう、おはよう!」

 ぼんやりしていた私は、ベッドに背をもたれて座る彼を目に入れるなり、反射的に起き上がった。毛布を抱きしめ、壁にくっつく。

 遠くから見た彼の手に、ゲーム機があるのが見えて、はっとした。

 そうだ。私、プリパレの最新作をやりはじめて……ジャスティンルートの冒頭で、寝落ちてしまっていたんだ……。

 でも、なんで彼の手に……?

 彼は、私の目線に気付いたのかそうじゃないのか、にっこり笑って、ゲーム機を軽く掲げた。

「あ、ごめん。ゆうのデータが欲しくて、ゆうの好きなゲームのデータ、集めてたんだ」

 彼の周りに積まれているゲームのパッケージに、息を呑んだ。プリパレだけじゃない、これまで私がプレイしてきた乙女ゲームの全部があった。

 全部見られた? それとも、これから?

 乙女ゲームが好きなんて、気持ち悪い――そう思われて、嗤われる……。

 怖くて、心が凍りつく。思わず、ぎゅっと指を組んだ。指先が、氷のように冷たくなって、震えが止まらない、

 その時。真っ青な私の顔に、彼がぐっと近づいた。「ヒ」と声が漏れた直後、彼は、ふっと笑った。

「ゆうの好きなキャラクターって、プリパレのジャスティンみたいな、大人っぽくて、クールで、無口だけど、ぽろっとやさしさを出すキャラクターなんだね。その方がゆうの恋愛感情パーセンテージ、動きそうかな? 試しに、やってみるね」

 彼の目が玉虫色に点滅する。

 私の顔の脇に、彼が肘をついた。壁ドンみたいな体勢になる。

 彼のきれいな顔が近づいてきて、ドキリとする。

 だけど、明らかに変わった彼の表情は、ジャスティンのように大人び、冷たく――怖かった。

「おい、ゆう」

 低い声。

 私の心と体が凍りつく。

「怖がるな。俺はお前を怖がらせるつもりはない。お前が俺を好きになれば、必ずお前を幸せにしてやる。だから――俺を好きになれ……」

 彼がささやいて、ふっとほほ笑む。

 このセリフ、覚えてる。プリパレ一作目の、ジャスティンの告白シーンのセリフだ。

 あの時、はじめて胸が強く高鳴った。

 だけど――まるで画面からジャスティンの魂が飛び出して、彼に乗り移ったみたいに、表情もしゃべり方も、全部全部同じなのに……。

 ――怖い。

 かちこちに固まった私をじっと見て、彼が、首を傾げる。彼の前に液晶のモニターがいくつも浮かびあがる。彼はその一つを見つめて、腕を組んだ。

「心拍数は上がっているけど、恐怖心によるマイナスの波長だね。恋愛感情パーセンテージは動いていない。やっぱりこのキャラクターの方がいいかな。それとも、好きなセリフが違う? このキャラクターで言ってほしいセリフがあったら言うよ! リクエストがあったら言って!」

 無邪気な笑みに、私は必死に首を振った。

「了解! じゃあ、キャラクターの方はこれで進めるね。他に、恋愛感情パーセンテージを上げるための手立ては……」

 私は、大きな危機感を抱いていた。

 このまま彼が私の彼氏として一緒にいることになったら、彼は永遠にこうやって、心拍数を上げるとか、恋愛感情パーセンテージを上げるとかのために、近づいてくるってことになる……。

 そんなの、死活問題だよ!

 どうにか、お母さんに送り返せないのかな……。

「あ、これ、返すね。ありがとう~」

 ゲーム機を手渡されて、恐る恐る受け取る。ご丁寧に、電源は切れていた。

 電源――。

 そういえば、人造人間っていうけど、考える“機能”の部分はAI、なんだよね……。

もしかしたら、電源ボタンとかあるのかな。もしあるなら、それをオフにしたら、送り返せる?

 でも、どうやって探せばいいだろう。

「ねえ、ゆう。デート行かない? 俺、もっとゆうのデータが欲しいな」

 目の前にしゃがむ男の子が、キラキラした顔で言ってくる。

 デートなんて、できるわけないのに……。

 振り絞るように、

「む、むりです……」

 と答えると、彼は即座に提案した。

「じゃあ、お買い物行かない? 朝ごはんもお昼ごはんもまだだし、ゆうの健康状態に合わせたメニューを俺がつくってあげる!」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • AIカレシの愛楽くん   43話 リムジンと赤い薔薇

     仕事は順調に進んだ。メールを送ったり、スケジュールを再調整したりといった本来の業務が夕方に終えられて、乙女ゲームのプロットに着手できた。 愛楽くんとの水族館でのデートを思い出して、キーボードを打つ指が弾んだ。 よかった。いい流れができた。 ……愛楽くん、大丈夫かな。今頃、修理、進んでるかな。腕も、大丈夫かな。動けるようになってるかな。 愛楽くんが帰ってくるまであと五日……。愛楽くんが帰ってきたら、訊いてみたいことがある。 小学一年生の時から見ていたってことは、もしかして、あの男の子たちにいじめられた日に、助けて、手を差し伸べてくれたのは愛楽くん……? そうだとしたら、お礼を伝えたい。助けてくれてありがとう。あの時やさしく手を差し伸べてくれたから、私はほんの少しでも、男の子のことを信じることができる気持ちを持つことができた……って。 違う人の可能性もあるかもしれないけど……愛楽くんだったらいいなって思う。どうしてだろう。 それに、大学近くのカフェで、私を見ていたって本当? って確かめたい。 私の知らないこれまでの愛楽くんのことを知りたい。愛楽くんがこれまで、私をどう思っていたのか、知りたい――。「武藤さん」「ハヒッ!」 どっぷり自分の思考に潜っていたせいで、深美くんに後ろから声をかけられて、思いっきりびっくりしてしまった。飛び跳ねて、椅子がベコンと鳴る。「大丈夫? ていうか、仕事切り上げられる? 今日は定時ですぐ帰った方がいいかも。あそこの騒ぎが落ち着いたら」 先輩たちが、窓のところに集まって、窓の外を眺めている。「すげえ車!」「俳優さん? ドラマの撮影かな?」「違うっしょ、上から何も連絡ないし、撮影機材もないし」「でも、結構かっこいい子じゃない?」「なんかプロポーズす

  • AIカレシの愛楽くん   42話 隗くんと深美くん

     恐怖に耐えられなくなった私は、彼の手を振り切って、部屋に逃げた。すぐに追いかけてきて、扉をどんどんと叩かれる。怖すぎて、棚を動かして扉を固定した。お風呂もお夕飯も終わらせていたから、布団にくるまって閉じこもった。しばらくそのままにしていると、諦めたのか、扉を叩く音は聞こえなくなった。ほっと安心して、そのうち、眠りに落ちた。 翌朝。ぼんやりしたまま、仕事だ、行かなくちゃ……と起き上がった。 邪魔な棚をうんしょと戻して、なんの気もなく扉を開ける。「ゆう……ああ……! おはようございます、マイプリンセス‼」  エプロン姿で、腕を広げて私に迫ってきた橙色の髪の男の子を見て、昨晩起きたことを、一瞬で思いだした! そうだった……! 愛楽くんがアメリカにバグを直しに行っている間、この子が代わりにこの家に……! 強く抱きすくめられて、動けない……! 頭に、ちゅっと、彼の唇の柔らかい感触が触れる……! ヒイイイイイ‼「ああ、腕の中に、ゆうがいる……夢みたいだ……ゆう、ゆう……!」「隗、落ち着いて。食事の準備をして。ゆうはこれから仕事に行かないといけないんだから」「仕事なんて行かせない。俺じゃない男たちがゆうの近くにいるのをただ見ていないといけないなんて、もういやだ……! 離さない……もうこの腕から絶対に出さない!」「隗。スリープ」 たちまち、痛いほどに私を抱きしめていた彼の腕から力が抜ける。ふらりと後ろに倒れるようになった彼を、深美くんが片腕で受け止めた。

  • AIカレシの愛楽くん   41話 三人のAI搭載人造人間

     立ち上がれなくなった私を愛楽くんがリビングまで運んでくれて、私、愛楽くん、深美くん、男の子でソファ前のテーブルを囲む。 男の子はずっと私を、キラキラした、泣きそうな笑顔で見つめてくる。うう、怖いよ……。 ヴーッヴーッと、私のスマートウォッチに、お母さんから着信が届いた。「ゆう、出て」 でも、深美くんが……。 困惑したまま深美くんを見ていると、愛楽くんが通話を押してしまった。 スマートウォッチに浮かびあがるお母さんの顔が、ニコッと笑う。『ゆう、久しぶりね〜!』『ゆうー! 無事かー! パパだぞー!!!!』「お母さん、お父さん……! 今、人が来てて……」『いいのよ。ダーリンと相談してね、ゆうに、本当のことを話すことにしたの。その子たちも関係のあることだから、いてもらうことにしたの』 本当のこと……? 関係があるって、深美くんも……?『AI-LEARN――通称、愛楽。そして、そこにいる二人……Heuristic-two――通称、隗と、DEEP-three――通称、深美は、ゆうのことを、小学一年生の時から守っているボディガード用AI搭載人造人間だったの』 ……え? ボディガード用……?  AI搭載、人造、人間――深美くんが……⁉『私のこの技術を狙ってくる敵会社がいくつかあってね。そこに雇われた犯罪集団が、昔から、ゆうのこ

  • AIカレシの愛楽くん   40話 本当に、サバイバルゲーム……?

     サバイバルゲーム……だったのかな、本当に……。 だって、あの電撃みたいなものに当たってしまった愛楽くんの腕は、帰ってきてもまだ、ぶらりとして動かない。 病院に行った方がいいんじゃ……でも、人造人間だとバレてしまったらよくないのかな。どうしたらいいんだろう。お母さんには愛楽くんから連絡したみたいだけど、連絡が来るまで待機しなきゃいけないみたい……。それまでの間、何か、手当てとかした方がいいんじゃないのかな……? 愛楽くんは「平気平気〜」といつもと同じ表情で笑っている。「でも、お料理手伝わせちゃってごめんね〜。疲れてるのに〜」 具材を切るのと調味料を計るのくらい、そんな……。いつもたくさんやってくれているんだから、このくらい、ちょっとのことだよ。 出来上がったミネストローネとサラダ、出来合いの貝のソースをかけたパスタを食べる。 黙々と口に運びながら、橙色の髪の男の子の言葉を、ふっと思い出した。――てめえ……AI-LEARN‼ なんで情報を共有しなかった‼ てめえのせいでゆうが危ない目に……! 恐怖で心臓が固まる。 だけど、少しずつ恐怖が緩んできて……胸に小さな違和感が引っかかっているのを感じた。 あの子、愛楽くんを、AI-LEARN――愛楽くんの本当の名前で呼んでいた。愛楽くんのサバイバルゲームでの名前なのかもしれないけれど……。というか、そもそも、愛楽くん、サバイバルゲームなんて、いつからしていたんだろう? バイトとか、ごはんをつくってくれたりとか、一時期はスポーツも練習しに行ってたみたいだったし、そんな時間あったかな……? 私が知らないところでやっていた可能性だって全然あるけれど。今回がはじめてだった、とか? でも、GPSって? 愛楽くんはスマートウォッチを持っていないのに……AIの機能とか、指輪とかでできるのかもしれないけれど……。 それに、もう一つ。あの男の子は、私の名前を知っていた。私が、危ない目に合うところだったと怒っていた

  • AIカレシの愛楽くん   39話 襲撃

     ――バリバリッ! 電撃のような音と、火花のような光が、愛楽くんの右腕で炸裂する。 私が、「ヒッ⁉」と悲鳴をあげると同時に、愛楽くんがはっと目を見開いた。即座に、私の背中を左腕で抱き抱えるようにして、滑るように走る。私たちが通り過ぎた道に、バリッバリバリッと、愛楽くんの腕に当たったものと同じような電撃の塊が当たる。 愛楽くんは私を連れて、石段を駆け下り、砂浜を走った。テトラポットと石壁の間に身を隠して、二人で息を切らせながらしゃがみこむ。「あ、愛楽くん……? ううう、腕……!」「ああ、これ? 大丈夫〜。痛覚はAIと繋がってないから、痛さなんて感じないし、すぐ治るよ〜」 愛楽くんはそうこそこそ言いながら笑うけれど、それが私を安心させるためのものなのだということは分かっていた。愛楽くんの右腕は、ぶらりと垂れ下がっているだけで、ぴくりとも動かない。どう見たって大丈夫じゃない……。 というか、これは何……? 電撃……? が、なんで愛楽くんを襲ってきたの……? 何が起きてるの……? 私の不安な表情に気付いて、愛楽くんがいつものようにふわりとほほ笑む。「大丈夫だよ、ゆう。俺がゆうを、絶対守るから」 ――……あれ。 この言葉……。 私の記憶が、フラッシュバックする。 小学一年生のあの日――私を助けて手を差し伸べてくれた、顔も見られなかった男の子の面影が、愛楽くんに重なる。 もしかして――。 バチバチッ! バチバチッ! と、二度、顔近くのテトラポットに、電撃が当たる。ここにいることが分かっているとでも言うように。「ゆう。俺が出たら、ここから出て、砂浜をまっすぐ走って。止まっちゃだめだよ」「愛楽くん⁉」&

  • AIカレシの愛楽くん   38話 アイオライトに導かれて

     外に出ると、夕日が世界を染めていた。 愛楽くんが、売店でバスタオルを買ってきてくれて、びしょぬれの私の肩にかけてくれた。 子ども用の、プールで使う着替え用のバスタオルで、ピンクのイルカのイラストが描かれていて、面白くてまた笑った。愛楽くんは私とお揃いの、水色のイルカが描かれたバスタオルを肩にかけていて、それも面白くて笑いが止まらなかった。 海がすぐそこにあった。夕日が見えるからと、愛楽くんに連れられて行く。 丸い夕日が、水平線の上に乗っていた。橙色の海と、夜が始まろうとしている紺色の空の色が混ざり合って、きれいだった。 強い風が、私たちの濡れた髪をなびかせる。 私たちしかいなかった。世界に、二人きりになったように思えた。「楽しかったね」「うん……。ありがとう」「ゲームの参考になった?」「あ。途中から忘れちゃってた……。でも、書けそう。ありがとう」「よかった~。どんなゲームなの?」 それは……。言ってしまうと恥ずかしいけれど……ここまで、付き合ってもらったし……。 ごくり。唾を飲んで、緊張で引っ付いた喉を剥がした。「……え、AIの男の子を攻略する、乙女ゲーム……」「…………俺?」 着想は、そう……。恥ずかしくてうつむくと、顔を覗き込まれた。「ゆう――俺のこと、好き?」 ドキリと、視界がぶれるほど、心臓が鳴る。 愛楽くんが、私の心拍数に気付いて、「あ」と言った。「見てみよっか」「え」 愛楽くんの前に、スクリーンが浮かびあがる。

  • AIカレシの愛楽くん   10話 In the systemー愛楽ー

    <BODYGARD SYSTEM> ――目標、地点T56F7。B24、C39、E67、起動。射撃準備、発砲。【BODYGARD PROGRAM】目標、処理しました。――ボディガード機能、スリープ。Heuristic-two、DEEP-threeに引き継ぎます。<TARK ROOM> 【DEEP-three】AI-LEARN、三十二分前の行動理由を説明して。通常

  • AIカレシの愛楽くん   9話 電源ボタンの行方

    「調味料は割とあったけど、バルサミコ酢と白ワインビネガーはなかったよね。オリーブオイルも切れてたな〜。ゆうは、値段と質、どっちを重視している派? 野菜と果物と肉は、栄養価を重視するために、一番鮮度が高そうなものを選んだよ」「や、安いもので……」 「了解! じゃあ、一番得なものを選ぶね! 俺にまかせて!」 彼がしゃがむ。オリーブオイルをいくつか手に取って見ながら、グラム数と値段とを見比べ、計算している。 首の後ろが大きく開いていて、背中が覗けそうだった……

  • AIカレシの愛楽くん   21話 自然な形

     スマートウォッチが、八時五十七分を示す。あと三分で始業の時間だ。 そうぼんやりもしていられないことに気付いて、私はペットボトルを抱いて、急いでオフィスに戻った。 スポーツドリンクと水をこまめに飲んで黙々と仕事する。 頭の重さは相変わらずだったけど、胃の気持ち悪さは、だんだん薄まってきた。「武藤、内線。事務から」 取ると、お客様が来ている、とのことだった。私を訪ねてくるお客さんなんて、思い当たる節がない。 ひとまず一階に下りると――。

  • AIカレシの愛楽くん   17話 歓迎会

     愛楽くんは私の表情が暗くなったことに気付いて、心配してくれた。「大丈夫、なんでもない……」と嘘をつく。愛楽くんは噓だと見破っていたけれど、ひとまず昼食を食べようと、手を引いてフードエリアへ向かった。 すれ違う人たちに、似合わないって思われていそうで、怖くて、恥ずかしくて、顔を上げられなかった。 愛楽くんは店員さんもお客さんも女性客が多い、半個室のカフェを選んでくれた。少しだけ、緊張が緩んだ。 ワンプレートを頼んだ。口に運んだけど、味がしなくて、淡々と食べる。食べ終わると、愛楽くんが、「今日はもう帰ろうか」と言ってくれて、う

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status